ビベスの霊魂論 Casini, "Juan Luis Vives on the Soul and Its Relation to the Body"

 スペインで生まれブリュージュで活動したフアン・ルイス・ビベス(1493–1540)は教育改革の必要性を訴える著作が広く読まれたことで知られています。彼はまた霊魂論について、霊魂の本質よりもその機能の探求を重視したとしてしばしば近代の心の理論の創始者とも杢されて来ました。そのような評価はまったく間違いというわけではないものの、実際に彼の『霊魂と生命について De anima et vita』(バーゼル、1538)を見ると、そこでは霊魂の本質を定義しようとしたり、霊魂と体との関係を明らかに使用としたりといった伝統的問題に彼が取り組んでいるのを見ることができます。

 ビベスによれば霊魂とは「生命を持つに適切な状態となった体のうちに住まう主要な作用者」として定義されます。「住まう」というのは霊魂と神と悪霊から区別するための規定です。後者は単に人間の体のなかに「いる」ことはでるものの、「住まう」ことはできないからです。また「適切な状態となった体」と体の意味が限定されているのは、すべての霊魂がすべての体に住まうことができるのではなく、たとえば犬ならば犬の器官が適切に形成されていないとその霊魂は住まうことが出来ないことを意味します。

 霊魂は一つの実体に一つしか住まうことができません。胎児は子宮の中で植物のような状態であり、この段階では栄養摂取霊魂しかもっていません。これが成長して感覚的霊魂を持つようになると、古い霊魂はしりぞき新しい霊魂に道を譲ることになります。理性的霊魂が宿るようになる場合も、感覚的霊魂はやはりしりぞきます。これはトマス・アクィナスと同じ見解です。

 しかし霊魂が一つであらゆる能力を統括しており、かつそれは体のあらゆる部位にあるなら、足でものを視るということができなければならないのではないかという疑念が生じます。これに対してビベスはジャン・ビュリダンに依拠して答えました。ビュリダンによれば霊魂が持つ主要な力(栄養摂取、位置運動、感覚など)は、適切な道具がなければ使用できない。したがって足がものを見られないのはそのための器官がないからとなります。

 霊魂と体との関係をビベスは二通りのモデルで理解していました。一つは職人と道具のモデルです。職人と道具とは独立であると同時に、職人が力を発揮するためには道具が不可欠であるという点が、霊魂と体との関係と類比的だとされます。もうひとつのモデルは光と空気のモデルです。光によって空気は輝くものとなる一方で、両者は決して混じり合わないという関係は、非物質的な霊魂と物質的な霊魂の関係をよく例解するとビベスは考えました。

 以上のような理論の定式化に際して、ビベスは古代のキリスト教哲学者であるネメシオスによる『人間の本性について』に大きく依拠していたと著者は主張しています。

参考文献

ルネサンス哲学

ルネサンス哲学

  • 作者: チャールズ・B.シュミット,ブライアン・P.コーペンヘイヴァー,Charles B. Schmitt,Brian P. Copenhaver,榎本武文
  • 出版社/メーカー: 平凡社
  • 発売日: 2003/09/01
  • メディア: 単行本
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ビベスが202–208頁で扱われています。