ライプニッツと形成的自然

ライプニッツ著作集 (9)

ライプニッツ著作集 (9)

 本書に収録された『生命の原理と形成的自然についての考察』(Considerations sur les Principes de Vie, et sur les Natures Plastiques)を読みました。1705年に書かれた作品です。ここでライプニッツは形成的自然(les Natures Plastiques)という概念にたいする彼の考えを述べています。形成的自然というのは動植物の発生の際にそれらの体を形成するために作用する非物質的な作用者として、たとえばイギリスのラルフ・カドワースによって想定されていたものでした。この概念の起源と発展については、1月に発売されるヒロさんの新作に詳しく書いてありますのでそちらをどうぞ。

 この概念にたいしてコメントするにあたり、ライプニッツはまず自分が考える生命原理というのは先行する諸学説と2つの点で違っていると述べます。第一に彼は霊魂と物質世界とのあいだの相互作用を一切否定します。非物質的な霊魂が物体(身体を含めて)にどう働きかけるかというのは古代からの難問でした。ライプニッツは両者の影響関係は「絶対に説明できない」と断定します。したがって両者のあいだには相互作用は全然ないと考えるべきです。相互作用がないのにあるように見えるのは、両者がピタリと対応するように神が図っているからです。これが神の予定である、ということになります。

 先行学説との第二の違いは、すべての生命原理は不死だとする点です。ここから必然的に動物の霊魂も不死であるということになります。しかし動物は死ぬではないか。もし死んだ動物の霊魂が不死なら、それは輪廻転生でもするのか。このような批判が当然予想されます。ここでライプニッツの有名な入れ子状の有機体理論が登場します。自然の部分というのはたとえそれがどれだけ小さくても独立した一つの有機体である。ある有機体の下にはより小さな有機体が包まれていて、それがまたより小さな有機体を包む。この系列は無限に続いている。そのためたとえ動物が死んで身体が解体されても、そこにあった霊魂が死に至るわけではない。また動物が生まれるという時も、小さな部分にあった有機体が展開するだけであって、厳密な意味での誕生というのは起こらない。

 これらの独自の学説を基礎にして、形成的自然概念へのライプニッツの応答が現れます。種子から動物が現れるとき起こっているのは、そこに予め存在していた有機体が展開し変形し身体をとることに尽きます。この展開と変形に際して、霊魂が何らかの役割をはたすことはありません。なぜなら霊魂が物質に作用することはないのですから。動植物が現れるのは、純粋に物質的な法則にしたがってのことです。たとえ物質的で機械的な法則であったとしても、予め有機体が存在しているがゆえに有機体を生じさせることができます。逆に非有機的な塊から動物が自然的に形成されるということは決してありません。以上から、非物質的な形成的自然概念というのは、「必要でないし[=有機体が予め存在していれば機械的法則で十分]それだけでは十分でもない[=非物質的なものは物質的なものには作用できない]」とされます。

 このような学説を唱える利点としてライプニッツがあげるのは、そこから導かれる法則の普遍性、斉一性です。物質の世界と霊魂の世界は相互作用せずに、それぞれに固有の法則にしたがって活動します。また空虚はなく、あらゆる大きさのスケールに有機体が見出されることになります。ここから「最も遠くにあるものや、最も奥深く秘されたものでさえ、身近にあってよく見えるものとの類比によって完全に説明できる」のだとライプニッツは誇らしげにこの論考を結んでいます。