ビザンティウムの哲学

The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 Volume Boxed Set

The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 Volume Boxed Set

  • Katerina Ierodiakonou, "Byzantium," in The Cambridge History of Medieval Philosophy, ed. Robert Pasnau (Cambridge: Cambridge University Press, 2010), 39–49.

 西ローマ帝国崩壊後、哲学の知はシリア語を解してアラビア語文化圏に伝わり、それが12世紀以降ラテン語文化圏に流入してくる。時代は下り15世紀になるとコンスタンティノープルの陥落にともない、ビザンティウムにいたギリシア語を解する知識人達と、彼らがもたらす新たな写本が西洋の知のあり方を変容させることになった。

 という話はシリア語のところを除けば高校の世界史でも習うことであって、そこに間違いはありません。しかしこの記述から奇妙に抜け落ちている問題意識があります。西ローマの崩壊からルネサンスまで哲学の伝統を継続させていたビザンツ帝国の領土で何が起こっていたのかまったくわからないのです。

 これは別に教科書レベルでの記述が手薄という話ではなくて、そもそもビザンツ哲学についての研究が少な過ぎて、それが一体どのようなものだったのか見取り図を描くことすら困難であるという状況に起因した事態です。ビザンツで多様な哲学的諸問題が扱われ、それが大枠としてはキリスト教信仰と調和する形での解答が与えられていたことは確かです。しかし個々の論者が哲学と神学との関係をどう捉えていたか。彼らが諸々の問題に先行する権威を参照しながらどのような解答を与えたか。これらの問いに答えるためには、まだ誰も見たことがないような史料群に当たって直接確かめていくしかありません。本文校訂から分析、そして相互の影響関係を探り、そこから少しずつ大きな描像を描き出していくという気の遠くなるような作業が待っています。

 このIerodiakonouの論考は、普遍について5世紀の哲学者アンモニオスが提出した考え方が、11世紀のビザンツ哲学者イタロスによってどう改変されているかを調べたものです。なぜ中世哲学史の教科書の「ビザンティウム」の項目でこんな特殊な話題についての単一の論者の見解が扱われているのかはよく分かりません。こういう各論のようなことしかビザンツ哲学についてはまだ言えないということでしょうか。

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