中世哲学における托鉢修道会

The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 Volume Boxed Set

The Cambridge History of Medieval Philosophy 2 Volume Boxed Set

  • David Luscombe, "Monks and Friars," in Cambridge History of Medieval Philosophy, ed. Robert Pasnau and Christina Van Dyke (Cambridge: Cambridge University Press, 2010), 63–75.

 西洋中世での古代の知の伝承や、学問の隆盛に修道院が大きく寄与していたことは間違いありません。実際アンセルムスもアベラールも修道士でした。しかし中世哲学でひときわ目立つのはなんといっても托鉢修道会、つまりフランシスコ会ドミニコ会の人々です。教皇の名のもと都市部で説教をすることで異端を排除しようとする彼らは、教育に重きを置いていました。たとえばドミニコ会では各修道院(convent)には4年間神学を学んだ教師を一人いなければならないと定められていました。聖書にかえてペトロス・ロンバルドゥスの『命題集』を神学のテキストにすることを推し進め、哲学教育の体系化をはかったヘイルズのアレクサンデルはフランシスコ会士でした。彼らは都市部に独自の教育機関を設けるのみならず、大学のポストを占めました。しかし彼らは大学ではあくまで少数者であり在俗教師たちとのあいだでの衝突が起こりました。特に教皇直属の托鉢修道士たちは、伝統的なキリスト教社会の位階構造を守ろうとする在俗聖職者の警戒を招いていたのです。また托鉢修道士間での対立も起こり、トマスにしたがうドミニコ会スコトゥスにしたがうフランシスコ会という対立図式が14世紀初頭より固定化し、保守化を招くことになります。たとえばドミニコ会の教師がトマスの教えから外れたかどで、同会が組織したコミッションから非難されるということが起こりました。もちろんトマスやスコトゥスの権威が絶対的であったわけでは必ずしもなく、たとえばスコトゥスの存在の一犠牲の学説はフランシスコ会士たちによって批判されていました。