忘れられた火の理論

科学的思考の考古学

科学的思考の考古学

 ラヴォワジェによる燃焼理論によって忘却されてしまった火についての化学理論を整理、分析した論考です。17世紀後半から18世紀にかけての火の理論は大きく3つに分けることができます。第一に火を元素(原理)とみなし、それを液性、稀化・拡張、駆動性の原因とみなすものです。第二に火を物質の運動の効果と見るデカルトホイヘンスによってとなえられていたモデルがありました。第三に火をより根源的な物質(たとえば普遍的流体や光や電気)の派生物としてみなすものです。

 マラー(Jean P. Marat, 1743–93)は、電流と類似的な火流の運動によって火に関連付けられている現象は起こると考えました。この火流がフロギストンを燃料として運動することで炎が生じます。レニュ(J. L. A. Reynier)は火を自然界にある活性の原理とみなします。それは拡張することによってかえって物体を固体化させるという性質をもつとされます。この固体化された物体のなかに固定化された火が拡張しようとすることで熱が生じます。ラマルクは火をエーテル火、熱素火、固定火の3つに分類します。燃焼とは物質中に閉じ込められている固定火が、空気中にある熱素火の作用によって熱素火に変貌する際に急激に膨張することによって起こる効果だとされました。摩擦熱もまた物体の衝突の際に空気中にあった熱素熱が集合し、拡張することで生じるとラマルクは論じました。