- Edward P. Mahoney, "Themistius and the Agent Intellect in James of Viterbo and other Thirteenth Century Philosophers (Saint Thomas, Siger of Brabant and Henry Bate)," Augustiniana 23 (1973), 422–67.
古代のアリストテレス注釈家の一人であるテミスティオスの能動知性論とその受容を扱った論文です。今日はその前半部を(422–445頁)。哲学史上能動知性をめぐる論争のなかでテミスティオスがしばしば重要な権威として言及されるようになったのは、アヴェロエスがその有名な知性単一説(能動知性も受動知性のすべての人間に共通でそれぞれひとつ)を支持した権威としてテミスティオスの名前を挙げているように見えるからでした(断定できないのがやっかいなのですが)。
テミスティオスは『霊魂論パラフレーズ』のなかで能動知性は一つなのか、それとも人間の数だけ多数あるのかという問いをたてています。そこで彼がいうところによれば、第一に照らし出すところの知性は一つであるのにたいして、照らされれて照らすところの知性は多くある。ちょうど太陽は一つだけれど、その光はいろいろな者に見られて分散すると同じように。この謎めいた発言ののちに、テミスティオスは人々が互いに理解できたり、教師が生徒に何かを教えることができるということは、彼らのあいだに共有されている共通の知性があることを意味すると論じています。ここからは彼は能動知性が一つしかないと考えていたように解釈できます。しかしそうすると数多くあるという照らして照らし出す知性というのは何なのか。この言明は知性が複数あることを意味するのではないか。この矛盾をはらむようにみえるテミスティオスの著作が、相対立する解釈を招くことになります。
アヴェロエスは自らの知性単一説を補強するにあたりテミスティオスの権威によっているように見えました。アヴェロエスにならってブラバンのシゲルスはアリストテレスによれば人間の知性というのは一つであると1265年から70年のどこかでおそらくは書かれた著作のなかで主張しました。これにたいしてトマス・アクィナスが批判を行います。彼は当時完成したばかりのムールベケのグイレルムスによるテミスティオス『霊魂論パラフレーズ』のラテン語訳を使いました。アクィナスはテミスティオスがいう照らされて照らすところの知性というのは、照らす知性としては能動知性を、照らされる知性としては受動知性のことを指していると解釈しました。これらの知性はすべて各人間に固有のものです。これにたいして第一に照らす知性の方はその正体をはっきりさせることをさけています。あるキリスト教徒はこれを神と到底し、たいしてアヴィセンナの場合は照明の究極の源泉は天の知性のうちの最も下位の知性となるというにアクィナスはとどめています。このように主張することでアクィナスはアヴェロエスの主張はギリシア人にも支持されていない信用できないものだと結論したのです。
アクィナスの反論を受けて書かれたシゲルスの著作でもまたグイレルムス訳を用いたテミスティオス解釈が行われています。そこでシゲルスはテミスティオスは第一の照らす知性として能動知性を措定します。いっぽう照らされて照らす知性は各人が持つ能動知性と同定されます。この各人の能動知性が最終的に各人の受動知性を照らすことで認識が成り立つ、これがシゲルスのテミスティオス解釈です。シゲルスはここで最初の一つの能動知性が何であるかを同定していません。しかしいずれにせよ彼はテミスティオスが人間の能動知性は人間の数だけあると考えていたことは認めたのです。おそらくはこのテイスティオス解釈を理由の一つとして、シゲルスはアヴェロエス流の知性単一説をアリストテレスに帰してよいものかどうか疑問をもつようになります。
アクィナスとシゲルスよりも少し若いマリーヌのHenry Bateはテミスティオスは確かにある部分では知性の単一性を支持しているように見えるとしながらも、第一の照らす知性は神、照らし照らされる知性は各人の能動知性と受動知性と解釈できるとして、ラテン世界で主流であった知性論解釈にテミスティオスを引きつけるということを行いました。
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