理性の時代の数量化 コーエン『数が世界をつくった』

数が世界をつくった―数と統計の楽しい教室

数が世界をつくった―数と統計の楽しい教室

  • I・バーナード・コーエン『数が世界をつくった 数と統計の楽しい教室』寺嶋英志、青土社、2007年、80–143ページ。

 現代の生活のすみずみにまで数が浸透することになった過程を追う著作から、啓蒙期における数を基礎にした考え方の拡張を論じた箇所を読みました。18世紀の後半は国家が数への関心を高めた時代でした。すでに18世紀の初頭にはフランシス・ハチスンが、行為の道徳性を計算する代数式を提案し、人間の幸福量の数量化を試みていました。トマス・ジェファソンは日々の生活で出会う数に強い関心を抱いており、法律の有効期間、勃発する反乱の性質の見極め、議会の議席数の配分、戦争により獲得する土地の選定といった事柄にたいして統計に基づいた決定を下すことを望みました。また彼は天然痘の種痘(当時は天然痘のウィルスそのものを接種させていた)を推し進めるに際し、接種により死に至るリスクは摂取しないで自然に天然痘にかかって死に至るリスクよりはるかに低いことを、データを使って証明していました。

 フランスでもまた国政術の領域で数量化の精神が発揮されました。人口調査のみならず、メートル法の制定や耕地での農業生産についての全国的調査がなされ、後者の二つにはラヴォアジエが参画していました。シンクレアが公表したスコットランド国勢調査は、各教区の牧師に提出させた報告が手を加えられないまま収録されており、当時の社会や経済状況を探るための貴重な資料を提供してくれています。彼は自らの調査を「統計」と呼び、それは「ある国の住民によって享受される幸福の量とその未来の改善の手段を確かめる目的でなされる調査」(124ページ)であるとしました。

 精神医学の領域ではピネルが「確率の計算」を用いて、病気の分類の確立と治療率の確定をしようとしていました。ピエール・シャルル・アレクサンドル・ルイは、肺炎その他の病気に対して当時処方されていた瀉血に効果がないことを統計的に実証しました。19世紀のはじめにはとりわけフランスにおいて数への関心は非常な高まりをみせ、国政上の問題や国民の生活状況に関する統計的データが数多く取られました。アンドレ・ミシェル・ゲリーは、このようなデータを用いて犯罪について研究を行いました。彼の「道徳統計」によれば、これまで考えられていたのとは裏腹に、最も高い教育水準を示す地区で最も高い犯罪率が認められました。また彼は自殺(当時は犯罪であった)にも強い関心を示し、自殺するときの人々の感情と自殺の情報に就いての情報を収集し分析しました。しかし今日ではケトレの威光の影で、ゲリーが統計学史において言及されることはまれとなっています。

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