中世における世界の完全性 Grant, Planets, Stars and Orbs

Planets, Stars, and Orbs: The Medieval Cosmos, 1200?1687

Planets, Stars, and Orbs: The Medieval Cosmos, 1200?1687

  • Edward Grant, Planets, Stars, and Orbs: The Medieval Cosmos, 1200–1687 (Cambridge: Cambridge University Press, 1994), 136–49.

 グラントの大著から、世界の完全性について論じた部分を読みました。完全な神が世界を創造した。ではその創造された世界もまた神と同じように完全なのだろうか。一般的にスコラ学者たちは、世界は絶対的な意味で完全ではないと考えました。なぜならもしそうならそれは神になってしまうから。しかし同時に彼らは世界は相対的な意味では完全だと考えていました。なぜなら世界というのはその中にある部分を含むものであり、全体は常に部分よりも大きいからして、世界というのは少なくとも世界の諸部分よりは完全だというのです。ではもし世界が相対的に完全であるとして、神は望むならば今よりも完全な世界をつくることができるのでしょうか。これはペトルス・ロンバルドゥスが『命題集』1巻第44区別で立てた問いです。多くのスコラ学者は、神は世界を今より完全なものにすることができる。それは世界に新しい種を加えるか、ないしは既存の種の完成度を高めることによってだと答えました。この後者の既存種の改良は、ある種を本質的に高めるのではなく(もしそうすればそれは別の種になってしまう)、ある種が持つ付帯的性質を改善することによってなされると考えられました。しかし神が今ある世界をより完全にできるということは、神は原初の創造のときに真に完全な世界を創造しなかったことになるのではないか。新しい種を付け加えることができるというのは、神が可能的に創造可能な種をすべて現実のものとしなかったことになるのではないか。すると神は最初に出し惜しみをしたことになるのではないか。(プラトンの『ティマイオス』に由来する)このような異議が出るにもかかわらず、スコラ学者たちは一般的に神の絶対的力にいかなる制限を加えることも望みませんでした。神は創造のときに世界に必要とされるだけの完全性と種を与えたのであり、その後も神は彼の絶対的な力能にしたがって自由により完全な世界をつくりうると彼らは考えたのです。