シュタールの発生論 Ceglia, "Georg Ernst Stahl and the Debate on Generation"

The Problem of Animal Generation in Early Modern Philosophy (Cambridge Studies in Philosophy and Biology)

The Problem of Animal Generation in Early Modern Philosophy (Cambridge Studies in Philosophy and Biology)

  • Francesco Paolo de Ceglia, "Georg Ernst Stahl and the Debate on Generation," in The Problem of Animal Generation in Early Modern Europe, ed. Justin E. H. Smith (Cambridge: Cambridge University Press, 2006), 262–84.

 ゲオルグ・エルンスト・シュタールの発生論と、その受容を論じた論文です。シュタールによれば、物質というのは不活性であり、化学的な過程により腐敗に向かう傾向性を有しています。有機体が腐敗しないのは、それを押しとどめる非物質的な霊魂が身体に宿っているからです。この唯一の能動原理たる霊魂を可能なかぎり多くの生命現象の原因とみなすところにシュタールの理論の特徴があります(それゆえ神経の役割は縮減される)。発生についても同じで、霊魂とはこれから形作る身体のスキーム(schema)を内蔵している建築家であるとされます。建築家であるとは言っても、人間の建築家のように理性的霊魂で推論(ratiocinatio)するわけではありません。霊魂は反省的な推論はせず、単純にこれから何をすべきかを理解しているような理性(ratio)を持ちます。形成の原因をもっぱら霊魂に帰すことにより、ガレノスの能力、ファン・ヘルモントのアルケウス、ウィリスの発酵のような霊魂から独立した何かが形成を行うことは否定されます。以上のような霊魂至上主義はシュタールが創始したものではなく、ルネサンスアリストテレス主義者たち、とりわけユリウス・カエサル・スカリゲルが提唱していたものと類似しています。

 シュタールの著作は読みにくく、また彼が発生について論じた箇所が少なく、かつその論述も不十分であったため、シュタールの学説というのは、弟子たち(たとえばMichael Alberti, Johann Daniel Longolius)によるその解釈を通じて流布することになります。そこでは「物質は不活発で運動は霊魂に由来する」という大前提の上にさまざまな(時にシュタール自身が拒否していた)考えがシュタール説として提示されます。反シュタール主義者(たとえばPeter Christoph Burgmann)も、弟子たちによる解釈に依拠してシュタールを批判することになりました。弟子たちの一部はシュタールの霊魂至上主義に宗教的なメッセージを付与していきました。こうして機械論的医学に対して、霊魂を措定する敬虔医学の代表者としてのシュタール像が形作られていくことになります。