著述家としてのカルダーノ  Maclean, "Girolamo Cardano: The Last Years of a Polymath"

 書誌学に精通した研究者によるジロラモ・カルダーノの晩年の著述活動についての論文です。とはいえ本論文のハイライトは、そういう一応の主題とは関係ない部分の記述にあります。それはカルダーノの著作の執筆、出版、残存状況について論じた部分で、そこでは書誌学者としての著者の強みがいかんなく発揮されています。カルダーノは多作家でした。あまりの多作っぷりに本人も整理の必要を感じたのか、『自著について』というこれまでの自分の書き物を通覧する書物を残しています。しかし傑作なのはこの本自体が4度も改訂増補されていることです。ここにも現れているようにカルダーノは多作なだけではなく、大量の草稿や出版した著作に常に手を加え続けていました。このやっかいな著述家の全集が出されたのは1663年のことでした。1620年代と30年代にガブリエル・ノーデを中心に精力的に行われたカルダーノ草稿の収集の成果の上に立ったものです。しかしこの全集とて大きな問題を抱えています。図書館に草稿が残っていることが確認されているのに収録されていない作品があったり、カルダーノの真作ではない著作が含まれているのです。またマクリーンは触れていないのですけど、とにかくパンクチュエーションの打ち方が不完全で、印刷されたテキスト通り読んでもラテン語として意味をなさない箇所も多くあります。近年最も進展が目覚しいカルダーノ研究の領域が著作の校訂版の作成であることも、このような事情を考慮すれば頷けるところです。