- Harold Stone, "Why Europeans Stopped Reading Averroës: The Case of Pierre Bayle," Alif: Journal of Comparative Poetics 16 (1996): 77–95.
アヴェロエスは中世からルネサンスにかけて毀誉褒貶はありながらも、広く読まれ続けていた。しかし17世紀後半から急速に読まれなくなる。どうしてか?この問題を検証する論文である。まずアヴェロエスが注釈をほどこしていたアリストテレスの権威が、17世紀にはいると急激に低下した。権威を剥奪されたアリストテレスへの注釈者をどうして読む必要があるだろうか。アリストテレスをなお学ぶ人々にとっても、アヴェロエスを置きかえる有力な対抗馬が出現していた。イエズス会が作成した注解群である。これがアリストテレス教育の教材となった。さらに1590年にカソボンが出版したアリストテレス全集は、アリストテレス自体へのアプローチの変更をせまっていた。アリストテレスを古代のギリシア世界に生き、ギリシア語で執筆した著述家として何よりも理解せよというのだ。この目的にとって12世紀のムスリムの著作がどんな価値をもつだろうか。最後にピエール・ベールの『歴史批評辞典』がとりあげられる。その「アヴェロエス」の項目のうちで、ベールは次のようなメッセージを発した。なるほどアヴェロエスは天才かも知れない。しかし彼のように理性への懐疑を欠き、かつキリスト教信仰をもたない人間はえてして行き過ぎてしまうものだ(そしてスピノザのようになってしまう)。この評価はその後のアヴェロエスの運命を予見していた。18世紀の懐疑主義者たちは、理性に依拠したドグマティストたるアヴェロエスを高く評価しなかった。信仰を守ろうとするものもまたアヴェロエスを嫌った。こうしてアヴェロエスは読まれなくなったのである。