カルダーノと異端審問 Baldini, “L’edizione dei documenti relativi a Cardano negli archivi del Sant’Ufficio e dell’Indice"

  • Ugo Baldini, “L’edizione dei documenti relativi a Cardano negli archivi del Sant’Ufficio e dell’Indice: Risultati e problemi,” in Cardano e la tradizione dei saperi, ed. Marialuisa Baldi and Guido Canziani (Milan: FrancoAngeli, 2003), 457–515.

 カルダーノは1570年より異端審問にかけられています。この審問はボローニャで行われていたもののボローニャ側の資料は残っていません。残っているのはローマに残されたものだけです。これとて19世紀の初頭に部分的に廃棄されているため完全ではなく、またその性質上ボローニャ資料の散逸による損失を必ずしも補うことができるわけではありません。しかしそれでも貴重な資料であり、それが転写掲載されることの意義は大きい。

 巻末の付録3に掲載されているのは、カルダーノの著作から異端的と思われる見解が表明されている箇所を抽出し、論評をした文書です(ヴァティカンに残っているらしい)。これを見ると「天体 Coeleste Corpus」と題された項目が長く、この主題に関するカルダーノの学説が強い警戒を招いていたことがわかります。天体からの影響にあまりに重きをおいたカルダーノは、摂理、自由意志、キリストの誕生や殉教者の死までも自然的原因から説明してしまったと文書の作成者は言います。このうち摂理や自由意志の否定はストア派マニ教がおかしたのと同じ過ちであるとされます。特に激しく批判されるのが、キリスト教ユダヤ教の教え自体は神から与えられたものに違いないけれど、それらの宗教を奉じる者たちが戦争に勝つか負けるかの運命は星々によって支配されていたというカルダーノの見解です。彼によればユダヤ人の運命は土星に、キリスト教徒の運命は木星と水星に、イスラム教徒とその他の偶像崇拝者たちの運命はまた別の星に支配されているのでした。これは極めつけに醜悪な見解であり、「この男がおかした最も深刻なあやまち」であると文書の作成者は論評しています。超自然の領域を自然化しようとしたポンポナッツィと同じ精神がカルダーノにも息づいており、これが教会の標的となったことがわかります。