明治維新の謎に挑む 三谷「革命理解の方法」

明治維新を考える (岩波現代文庫)

明治維新を考える (岩波現代文庫)

 複雑系と呼ばれる領域の成果を援用しながら明治維新の謎を理解しようとした論文です(初出は2000年)。明治維新の謎とは、それがまずしたからの革命ではなく、むしろ上位身分内部での政変が、上位身分自体の解体を導いたことです(身分的自殺)。また死者が非常に少ない。革命の理念にしてもはっきりとした倒幕のイデオロギーはなく、王政復古の思想があらわれて以後も、その理念のうちにはおうおうにして徳川家が政治主体として含まれていました。これを理解するにはどうすればいいか。著者が提唱するのは、初期の状態ある状態を原因として帰結としての維新を説明するという歴史学の常道ではありません。まずより細かい変化の段階を同定します。それからそれらの変化のうちに、先行する変化が後行する変化を産み出していくというポジティブフィードバックの要素がなかったどうかを探るのです(安政五年政変が典型例として語られる)。この変化が変化を呼び起こす過程のなかで当初は明確となっていいなかった理念が、当事者たちにも予測していなかった形で生成されることになりました(たとえば橋本左内の政治構想が朝廷を頂点としたものに読みかえられる)。さらにこの変化ごとの分岐を見ていくと、そこでありえた変化の選択肢というのはそれほど多くなかったことがわかります。しかも維新の最終局面(大政奉還から鳥羽伏見)ではこのありえた変化のうち、確率的にはおよそ低そうな経路が連続して辿られているといいます。維新の規模の大きさと、その説明の困難さの同居はこの点から説明できるのではないかと著者は考えています。