中世科学とコンテキスト主義 Grant, "Reflections of a Troglodyte Historian of Science"

Clio Meets Science (Osiris, Second Series)

Clio Meets Science (Osiris, Second Series)

 1970年代までの科学史はテキストからアイデアを読み取ることに主眼をおいていました。それが80年代以降、社会がいかに科学の発展に影響を与えるかの探求が主眼になってきます。中世スコラ学のテキスト校訂から出発した著者自身も、近年では社会的・制度的現象が科学に重要な意味を持ったことを認識するにいたっているといいます。たとえばアラビア、ギリシア語からラテン語への翻訳活動、大学制度、そして(最終的には)教会がアリストテレス哲学に敵対的態度をとらなかったこと17世紀の科学革命にとって必要不可欠な条件でした。アリストテレス哲学にたいする対決的な教会の施策すら、神の無限の力を強調することで、アリストテレス哲学では認められなかったような思考実験の余地を生みだし、哲学的思惟の可能性を広げていたと言えます。

 ただし著者はテキストを解読するときにあまりにコンテキストを重視することにも反対です。テキスト内容をコンテキストに還元することは内容の理解の理解の精度を落とします。またコンテキストにはそのコンテキストがあり無限後退に陥ります。結局、思想のテキストの読解ではテキストそのものと、同じ問題を扱う別のテキストとの関係を考察していくのが生産的であると結論づけられます。

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