- 作者: Manfred Horstmanshoff,Helen King,Claus Zittel
- 出版社/メーカー: Brill Academic Pub
- 発売日: 2012/06/01
- メディア: ハードカバー
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- Barbara Baert, Liesbet Kusters and Emma Sidgwick, "An Issue of Blood: The Healing of the Woman with the Haemorrhage (Mark 5.24b–34; Luke 8.42b–48; Matthew 9.19–22) in Early Medieval Visual Culture," in Blood, Sweat and Tears: The Changing Concepts of Physiology from Antiquity into Early Modern Europe, ed. Manfred Horstmanshoff, Helen King and Claus Zittel (Leiden: Brill, 2012), 307–338.
福音書にある挿話が様々な伝統のなかでどう呼び出されているかを調べた論考です。マルコ福音書には「12年間も長血を患っている女」がイエスの衣にさわったところ、「すぐに血の源が乾き、その疾患から癒されたと自分の身で知った」という逸話があります(5:25–34; 田川建三訳)。この女性の症状は月経血がとまらないことではないかと古代では解釈されました(現代でもその解釈が主流)。とすると月経血をタブー視するユダヤ教の伝統とこの伝承は緊張関係を持つことになります。実際、月経中の女性はけがれているため聖餐式に参加できないという議論にたいして、大グレゴリオスは月経血がとまらない女性がキリストの衣に触れることが許されたのに、なぜ月経中の女性が聖餐式に参加できないことがあろうかと反論しています。
手で触れたり、言葉によってたちどころに病気をなおす神の子というイメージは、医の神アスクレピオスを奉じる古代の伝統への対抗として、様々な場所で描かれたり彫られたりしました。「長血を患っている女」のモチーフもキリストの治癒物語の一つとして盛んに描かれます。血そのものが描かれることこそないものの、「血の源」という聖書中の言葉から、泉や液体のモチーフと組み合わされて描かれることになりました。
初期中世以降は「長血を患っている女」のモチーフは魔術と結合するようになります。子宮を落ち着かせて出血をとめる力を持つとされたアミュレットにこの女性が描かれたり、出血をとめるための呪文のうちに彼女が言及されたりするようになるのです。