最初期日本語訳聖書の世界 吉田「和訳聖書翻訳の新事実」

思想 2013年 03月号 [雑誌]

思想 2013年 03月号 [雑誌]

  • 吉田新「和訳聖書翻訳の新事実 ソロモン・C・マラン手稿(1853年)の出現」『思想』no. 1067, 2013年3月、75–86ページ。

 最初に出版された日本語訳聖書は、ドイツ人宣教師のカール・F・A・ギュッツラフが1837年にシンガポールで出版したもので、「ヨハネ福音書」と「ヨハネの手紙」でした。この「ヨハネ福音書」訳の書きだしはよく知られているものです。

はじまりに かしこいものござる。 このかしこいもの ごくらくともにござる。 このかしこいものわごくらく。(原文はカタカナ)

 ロゴス=カシコイモノ、テオス(神)=ゴクラク!なんという翻訳。これが始原の特権性か。

 それはともかくこの論文は、上記翻訳をつくったギュッツラフが訳者である可能性がある新しい「ローマ人への手紙」日本語翻訳(抜粋訳)と、もう一つ新しい「ヤコブの手紙」訳がオックスフォード大学で発見されたことを報告するものです。みつかった翻訳は19世紀のイングランド国教会司祭であったソロモン・C・マランが寄贈した和書コレクションのなかにあった手稿中にありました。両方ともマランが書き残したものであり、「ローマ人への手紙」は使われている訳語からしてギュッツラフの訳である可能性があります(確定ではない)。また「ヤコブの手紙」はマラン自身の翻訳だと考えられます。この発見はまず「ヤコブの手紙」の初日本語訳の年代を30年ほどさかのぼらせるものです。また「ローマ人への手紙」がキュッツラフ訳である可能性は、彼が新約聖書の全訳をしていたという証言の信ぴょう性をさらなる手稿調査により確認する必要性を示しています。さらなる調査報告を待ちましょう。