- 根無一信「介入せずに介入する神 ライプニッツにおける連続的創造と神の協働」『哲学』No. 64、2013年、157–171ページ。
ライプニッツについての明晰な論述を堪能しました。ライプニッツがニュートンが構想した神を否定したことはよく知られています。ニュートンの神は一度作った時計を定期的に手直しし続けなければならない不完全な職人のようなものだというのです。ライプニッツにとって神が創造のときに生み出した予定調和は完全です。それがあとから手直しが必要になるというのは神の完全性を損なう冒涜的立論でした。しかしそうすると神は創造後は世界の支配者とはいっても、実質的にはなにもすることがない名目的支配者になってしまうのではないか?こうニュートン(クラーク)側からライプニッツは批判されました。これにたいして彼は事物が存続し、それが働き続けるために神は連続的に影響し続けていなければならないと反論しました。手直しはしないけれど影響はおよぼし続けるとはいったいどういうことなのか?このジレンマを解く鍵は彼の創造論にあります。彼にとって神の創造とは可能的に最善な世界を実現することです。あらゆる本質は現実化しようという傾向性をもっています。それは「妨げるものが何もなければ」現実のものとなります。このようなもろもろの本質は互いに現実化しようと競いあって争っていると考えられます。そこで神は最善の世界で現実化すべきものが、現実化すべきでないものによって妨げられないようにしました。この妨げの取りのぞきは創造以降も継続しています。最善世界を構成する本質が存在し働き続けるために、神は妨げを取りのぞき続けているのです。これが神が世界に連続的に影響をおよぼし続けていることの意味です。この意味でライプニッツの神は「介入せずに介入する神」なのです。
「妨げるものが何もなければ」というのは、アリストテレスがデュナミスを説明するために『形而上学』第9巻で導入した語法です。これをライプニッツが自身の世界理解の核として利用しており、それがクラークとの論争に浮上してきていたのはとても興味深いです。串田「脱抑止される生命の衝迫たち 超越論的な形而上学と生物の問題」と合わせて読みたい一本です。
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