初期近代イングランドの粒子論・原子論の伝統 Clucas, "'The Infinite Variety of Formes'"

  • Stephen Clucas, "'The Infinite Variety of Formes and Magnitudes': 16th- and 17th-Century English Corpuscular Philosophy and Aristotelian Theories of Matter and Form," Early Science and Medicine 2 (1997): 251–71.

 16世紀終わりごろから17世紀後半にかけてのイングランドの粒子論者を扱う論文です。フランシス・ベーコン(1561–1626)、Walter Warner (1562–1643)、ニコラス・ヒル(1571–ca. 1621)、ロバート・ボイル(1627–91)がとりあげられます。全体としては形相概念が質料の構造と、そこにこめられた力という観念によって置きかえられていき、しかもそうやってつくりだされた探求対象が神から切り離されて自律的な自然研究の領域となっていくということが論じられています。そこからイングランド特有の物質理論を知的発展をとりだせるとされています。

 これらの主な主張点は説得的に示されているとは思えないものの、細かいところで興味深い事実が掘りおこされています。Warnerもヒルも原子が持つ力が光が拡散するようにまわりに作用すると論じている点です。この光の放射(radiation)のイメージの出どころや変遷は気になります。またヒルが運動学的な原理を立てる必要がなかったのは、彼が神の力が直接的に万物に浸透していると考えたからであり、これにたいしてWarnerは神に言及せずに物質のレベルで変化を説明するために、アリストテレスにまでさかのぼる原理を導入することになった、という対比もメモしておきます(266–67)。二次原因の範囲内での説明を志向することが形成原理を呼び込むということです。