天を描きだす古代機械 マーチャント『アンティキテラ』

アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ (文春文庫)

アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ (文春文庫)

  • ジョー・マーチャント『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピューター』木村博江訳、文春文庫、2011年。

 良質の科学史読物です。そう、古代の技術のとてつもなさに驚嘆したり、それが発見され解読されていく過程で駆使される最先端テクノロジーに興奮したり、そういうすべてに関与する人間たちの喜びや葛藤に共感したりできる。

 20世紀の初頭にギリシアの海から引き上げられた不思議な歯車機械。アンティキテラと名付けられたこれはなんぞ?天に関係があるに違いない。アストロラーベか?プラネタリウムか?いやなんかそういうものではなさそうだ。

 そもそもいつごろつくられたの?放射性炭素年代測定法によると、この機械を積んでいた船は紀元前260年以後のもののようだ。もっと正確にはいつなのだろう。同じ場所から出てきた陶器の形状からすると、紀元前80年から60年くらいになるようだ(考古学すげえ)。あ、もう一度潜ってみると硬貨が出てきた。ここからするとどうやら紀元前70年から60年のあいだに沈んだみたい(考古学上の年代決定におけるモノの重要性について、長谷川『聖書考古学』を取り上げた関連記事参照)。

 しかし内部構造はよくわかりません。ここでデレク・デ・ソーラ・プライスが現れ、ガンマ線をつかって機械を破損することなく内部をみる新技術を駆使して、アンティキテラの仕組みにせまります。彼の結論は、この機会は地球から見た太陽と月の動きを計算するためのものであったというものでした。紀元前に歯車を駆使した天文学の機械があり、正確に星の運行を予測していた。テクノロジーの歴史は塗りかえられます。「私としてはこれですべて説明がついたと思います」(293ページ)。

 だが説明はついていなかった。プライスの説明ではつじつまの合わない箇所が多くあったのです。となると、X線を使って内部が撮影できるようになったからするしかない。しかしせっかく撮った写真資料は活用されることなく、オーストラリアの研究者の手元に何年も放置されてしまいます。実はその研究者は病魔に侵され…、というようなストーリーが紡がれていきます。

 アンティキテラの意味がほぼ明らかとなったのは、2006年のことです。それが真に計算しようとしていたものとは…。それは私が言葉で説明するよりも映像で見たほうがよい。見てください、これが紀元前1世紀のテクノロジーですよ。

 (゚д゚) ←こんな感じになりましたよね。科学史関係の歴史読み物って人をこんな顔にさせないといけないと思うのですよ。それができている良書です。おすすめ。

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レゴで組み立てるとこうなる。