西洋中世学会第5回大会参加記

 今週末は中央大学多摩キャンパスで開催された西洋中世学会第5回大会に参加してきました。二つの発表についてメモを残しておこうと思います。

 岡本広毅「Sir Gawainを襲う危機」は、14世紀末に成立したとされる『ガウェイン卿と緑の騎士』のなかで、主人公ガウェインが滞在先の奥方とのあいだでくりひろげる「ベッド上での交戦」の模様が、当時のイングランド王であるリチャード2世の対外国政策を暗に皮肉っていることを、文献学的なアプローチで明らかにするものでした。昨年の立教のシンポジウムで平野隆文先生がラブレーの何気ない言葉遣いから、彼一流の当てこすりを読み取っていたのを思い出させる手さばきです。文学作品の記述から政治的意図を(単なる深読みといわれないための説得力のある根拠をもって)読みとる大切さが伝わってきました。なお、『ガウェイン卿と緑の騎士』は実はリチャード3世の時代に成立しており、ガウェインが重ねあわせられるべきはこの王ではないかという論文が近年出された模様です(質疑応答より)。このような対立意見と付きあわせながら、さらに説得性を増した刺激的な論点が抽出されることに期待したいです。

 加納修「『ローマ法にしたがって』(secundum legem romanam) 中世初期ヨーロッパにおけるローマ法観念と法実践」は、ローマ法に関して私たちがいだいている観念に再考を迫るものでした。ローマ法といえば普通膨大な法典に基づいた精緻な法体系を想起させます。たしかにローマ法にはそういう性質があるものの、じつは初期中世(8-9世紀のフランク王国[とくにブルゴーニュ?])の関連史料から浮かびあがるのは、ローマ法がローマ法として意識されながらも、「ローマ法」と言いながらそこに慣習法との重なりがみられます。たとえばローマ法と言いながら内容はサリカ法典やリプアリア法典と実質的と同じことを指していることがあるわけです。ローマ法というのはローマの花形なのですけど、これも実は中世初期に混濁した形で伝わっていた、しかしそれはある種の切り札というか正当化の道具として「ローマ法にしたがって」といって鋭く意識され続けていた。この実体の曖昧さと、ある局面での輪郭の明瞭さが、中世のその他の領域でのローマ理念にも共有されているのではないでしょうか。