三一の神とデュナミス 土橋「カッパドキア教父における信仰と知の問題」

中世における信仰と知 (中世研究)

中世における信仰と知 (中世研究)

  • 土橋茂樹「カッパドキア教父における信仰と知の問題」上智大学中世思想研究所編『中世における信仰と知』知泉書院、2013年、31–50ページ。

 カッパドキア三大教父のうちのカイサリアのバシレイオス(330頃–379)とニュッサのグレゴリオス(335頃–394)の三位一体論の検討から、彼らがギリシア哲学からとられた概念に新たな意義を付与することで三一の神に関する理論を展開したことを明らかにする論考である。カッパドキアの三大教父たちが取りくんだのは、神、キリスト、聖霊の三つの位格がウーシアにおいて同一であるというニカイア信条(325年)で示された教義を解明することであった。その際に大きな意味を持ったのが、ギリシア哲学からとられたデュナミス(力)という語彙である。バシレイオスは晩年の『聖餐論』のなかで、プロティノスのデュナミス理解によりながら、三つの位格はそれぞれ区別されるものでありながら、同一の力に与っているがゆえに、一つのウーシアであり、ひとつの崇敬に値すると論じた。ニュッサのグレゴリオスもまた三つの位格が一つのデュナミスにおいて一とされると考えた。バシレイオスとグレゴリオスのうちではデュナミス概念が、三つの位格を力動的な観点から統一して理解することを可能としている。こうして彼らの信仰は深まったのであり、それは同時に教義の哲学的理解の深化でもあった。

より短いまとめ

 土橋茂樹「カッパドキア教父における信仰と知の問題」は、カッパドキア三大教父のうちのカイサリアのバシレイオス(330頃–379)とニュッサのグレゴリオス(335頃–394)の三位一体論の検討から、彼らがギリシア哲学からとられたデュナミス(力)概念に新たな意義を付与することで、三つの位格を一つのウーシアとして理解する観点を獲得したことを明らかにする。