アヴェロエスにおける神学者批判と宗教の効用 ド・リベラ『中世哲学史』

中世哲学史

中世哲学史

 アヴェロエスは、宗教、神学、哲学の関係について論じるにあたり、人間は『クルアーン』読解のレベルによって三つの階層に分けられるという前提から出発した。最下層は解釈ができない人々からなる。彼らは『クルアーン』の字義通りの意味しかわからない。最上層は確実な前提から三段論法を行うという論証的なやり方で『クルアーン』を解釈していける人々である。これは哲学者となる。これら二つの階層の真ん中に、三段論法は用いるものの確実な前提からではなく、蓋然的な前提から出発する者たちがいる。彼らは蓋然的な結論しか得られない。この階層には神学者(ムータジラ派とアシュアリー派)が属する。

 アヴェロエスの主張の核心は、この中間の階層である神学者を排除することにあった。というのも論理的に考えて彼らは必要ないからである。解釈を必要とする箇所では、彼らは確実な論拠から出発しないがゆえに論証からくる確かさに決して到達しない。また字義通りに読むべきテキストでは、彼らは大衆と同じ読みにしか到達しない。にもかかわらず彼らは解釈を行おうとして、理解せずに信じるべき人々の信仰を破壊してしまう。「こうしたことから結論されるのは、彼らが人々を憎しみ、ののしり合い、いさかいの中に陥れるということ、彼らが『コーラン』をずたずたに引き裂いてしまうということ、そして彼らが民衆を完全に分裂させるということである」(214-215ページ)。

 神学は解釈できない人と、解釈を行う人を不必要に媒介してしまう。このつながりは断たれるべきである。大衆、神学者、哲学者のあいだにありうるあらゆる種類の交流は停止させられなければならない。この停止を行うべきであるのが宗教的政治権力、すなわち「ムスリムの長たちの義務」である。宗教の効用とは、大衆と哲学者の切り離しにより、社会に安定を調達することにあるのである。

 アヴェロエスイスラム神学者批判を、ラテン中世の神学者たちは、キリスト教を含む宗教一般の批判と受けとり、これへの反発を深めていくことになる。