辺境の錬金術 Bobory and Rampling, ""Alchemy on the Fringes"

 Early Science and Medicine誌で組まれた、いわゆる辺境での錬金術実践に焦点をあてた特集の序文である。古くから新しいところまでおおくの文献が挙げられており目録としても有用である。伝統的な科学史のヒストリオグラフィでは、錬金術自体が化学の(あまり好ましくない)先駆者という位置づけしかあたえられていなかった。しかも中欧から東欧の地域は共産圏であったため英語圏の研究者には政治的に、また言語的に史料や研究へのアクセスが難しかった。さらに共産圏にあって盛んとなった経済史や社会史の研究に錬金術という主題がはいる余地はなかった。そのためこの地域の錬金術研究で英語圏で引かれるものといえば、いくつかの例外をのぞくと、エヴァンズの仕事にまでさかのぼってしまう状況であった。この状況は近年では改善されてきている。そのなかで本特集がとり組むのは、科学史の全体のヒストリオグラフィの潮流にそうかたちで、東欧や中欧錬金術実践研究を行うことだ。近年の科学史研究では従来の中心・周縁モデルにかえて、さまざまな利害関心を持つ人間たちがアイディア・モノを交換し交渉を行う「コンタクト・ゾーン」での知識生成のありようを問う研究が増えている(知識は単に中心から周辺へと流れるのではない)。中欧・東欧で行われた錬金術活動も、単なる一地域における活動としてではなく、広域的なネットワークのなかでそれがいかに機能していたかが究明されねばならないという。

関連文献

  • Marcos Martinón-Torres, "Some Recent Developments in the Historiography of Alchemy," Ambix 58 (2011): 215–37.

魔術の帝国―ルドルフ二世とその世界〈上〉 (ちくま学芸文庫)

魔術の帝国―ルドルフ二世とその世界〈上〉 (ちくま学芸文庫)

魔術の帝国―ルドルフ二世とその世界〈下〉 (ちくま学芸文庫)

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バロックの王国: ハプスブルグ朝の文化社会史1550-1700年

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