経度を測り、金を調達し、ヴィジョンを得る Schaffer, "Swedenborg's Lunars"

 エマヌエル・スヴェーデンボリを一種のプロジェクターとして描いた論文を読む。自然哲学者としてだけでなく、独自の宗教思想を提唱した人物として知られるスヴェーデンボリは、当時のロンドンを中心とする科学界隈で論争の的となっていた海上での経度の測定の問題に取りくんでいた。彼はスウェーデンからロンドンにきた当初から、同地の機器職人と交わり、科学実験が行われる場所に足しげく通い、科学に関する専門書(たとえば『プリンキピア』)を読んでいた。一流の科学者であるハレーやフラムスティードとも交友を深めるなかで、スヴェーデンボリの経度測定方法も深化していったと考えられる。彼の提唱した月を利用した測定法自体は目新しいものではなく、発表後もそれほど耳目をひいたわけではなかった。むしろ注目に値するのは、彼がこの方法の定式化後にスウェーデンに帰ったのち、自分や志を同じくする人々の科学研究の成果を発表する雑誌を創刊したり、王に訴えてその援助のもとスウェーデン鉱山省のメンバーに任命されたり、さらには(経度測定に不可欠と思われた)観測を行うための施設をスウェーデンにつくろうとしたりと、同地において科学活動を行うための基盤を整備しようとしたことにある。この点で彼は当時に多数存在していたプロジェクターの一人と考えることができるだろう。こうした活動によってえた鉱物調査の成果が、やがて彼の壮大なコスモロジーの一部となっていく。科学活動を行うこと、資金を調達すること、そこから宇宙規模のヴィジョンを得て宗教活動へ向かうことが相通じている様子をスヴェーデンボリの活動からはみてとることができる。