近代における錬金術観の形成 Principe, The Secrets of Alchemy, ch. 4

The Secrets of Alchemy (Synthesis) (English Edition)

The Secrets of Alchemy (Synthesis) (English Edition)

  • Lawrence Principe, The Secrets of Alchemy (Chicago: University of Chicago Press, 2012), 83–106.

 第4章は16世紀、17世紀を飛ばし、18世紀以降の錬金術の歴史が語られる。これは現在一般にひろく共有されている錬金術観が形成されたのがこの時期であるためだ。まずこの時期になにが起こったのかを確かめることではじめて、現代の先入観抜きに、錬金術の黄金期になにが起こっていたかをみることができる。18世紀の初頭に錬金術と化学の切り離しが起こった。これまで錬金術の伝統のなかで培われてきた技術の多くを化学のなかで保存しながら、金属変成の試みは欺瞞に満ちた活動としての錬金術として化学から分離された。これはちょうどその時期に化学という領域が専門分野として確立されようとしていたため、疑惑の目でみられることが多かった金属変成の営みを化学から追放することで、化学と化学者の地位の引き上げが目指されたためである。これにより化学と錬金術は分離された。理性の時代はその後、かつての迷信に属すると判断した魔術、占星術といった営みと錬金術をセットにして糾弾していく。しかし錬金術は死に絶えたわけではなかった。19世紀半ばには錬金術の核心にあるのは、実際の実験室での化学実践ではなく、むしろ術師が自らを変成するための心理的なプロセスだとする論者があらわれる(背後にはメスメリズムがあった)。この考えのうえにさらにユングエリアーデらの錬金術心理的解釈が加わることで、現在の化学とは切り離された自己変容のための営みとしての錬金術観が生まれるようになった。これに18世紀初頭に形成された欺瞞的な営みという要素を加えれば、おおよそ現在一般的な錬金術像が得られるだろう。錬金術が歴史上いかに行われてきたかは、これら後代に形成された観点からは独立に検討されねばならない。