初期近代文化のうちでの錬金術 Principe, The Secrets of Alchemy, ch. 7

The Secrets of Alchemy (Synthesis) (English Edition)

The Secrets of Alchemy (Synthesis) (English Edition)

  • Lawrence Principe, The Secrets of Alchemy (Chicago: University of Chicago Press, 2012), 173–206.

 最終章である第7章では、初期近代の広い文化的文脈のうちで錬金術が論じられる。初期近代には錬金術的なアレゴリーをエンブレムのかたちで表現する本が増加した。これは同時代の人文主義者たちのエンブレムへの関心の増大を反映すると同時に、彼らの学芸に錬金術を関連づけることで、錬金術の地位を高めようとする試みであった。この試みの背後には人文主義者たちが錬金術に示した否定的な反応がある。じっさいダンテ、ペトラルカは錬金術を不道徳な行為として非難していた。たいして後期人文主義者のあいだで錬金術の地位を確保するために、古代の神話のうちに錬金術的なモチーフを読みこむことが行われた。この営みが聖書にまで拡張されることもあり、これは当然ながら激しい反発を招くことになる。詩人や画家たちは、錬金術は限られた人間にしかできない技芸であり、それにむやみに携わることをいさめたり(チョーサー)、錬金術により家族が困窮におちいる場面を描いたりした(ブリューゲル)。一方で錬金術を好意的に描く画家もいた。劇作家は一般的に錬金術師をコミカルに描くことが多かった(ベン・ジョンソン)。詩人はといえば錬金術のモチーフを肯定的にも否定的にも用いた。さまざまな領域でみられる錬金術への否定的イメージの中核には、詐欺をはたらく錬金術師像があった。ドイツでは法律の関係上、君主との契約をまっとうできずに処刑される錬金術師が数多くいたことはたしかである。しかし彼らの多くはかならずしも完全な詐欺師ではなかった。むしろ自らがこれまでに達成した成功から、今後の成功を見込み、結果として君主の期待に添えなかったという者が多数いたのだ。最後に錬金術のモチーフは宗教文書に数多く現れる。逆に錬金術文書も宗教的話題に満ちている。これはすべては創造主である神のもとで一体のコスモスをなしているという当時の世界観の反映として理解せねばならない。