アベラールへの反論  Boh, "Divine Omnipotence in the Early Sentences"

  • Ivan Boh, "Divine Omnipotence in the Early Sentences," in Divine Omniscience and Omnipotence in Medieval Philosophy, ed. Tamar Rudavsky (Dordrecht: Reidel, 1985), 185–211.

 アベラールは神は今ある世界よりもよい世界をつくることはできないとした。もしできるとすると、神は最初に最善でない世界をつくったことになる。これは神の善性を損なう。また神が今ある世界に変更を加えられるとすることは、神に可変性を認めることになる。これは神の超越性を損なう。神の善性と超越性を重視し、その自由と全能性を犠牲にするアベラールの議論にたいして、多くの論者が即座に反対の論陣を張った。本論文で扱われるのはそのうち、Roland Bandinelli、ペトルス・ロンバルドゥス、Peter of Poitiersである。彼らはアベラールとは正反対に、神は今ある世界よりもよりよい世界をつくることができると論じた。しかしその議論の手法はアベラールと共通のものであった。論理学という分析ツールを用いて神学上の問題を論じるというものである。これこそ保守的神学者であるWalter of Saint-Victorが神学を危機に陥れる動向として嘆いたものであった。本論では上記3名の論者がアベラールに反論するために、どのように議論を組み立てていったかが追跡される。