稲葉、ギブスの熱力学と統計力学

 以下では読んでよかった作品を少し紹介して行きます。

  • 稲葉肇、「ギブスの熱力学と統計力学 物理化学の視点から」、『科学史研究』、第49巻、2010年、1-10頁。

 アメリカ人の物理学者であるジョサイア・ウィラード・ギブスは19世紀に熱力学と統計力学を完成させた人物として知られています。しかし意外にもこの人物がどのように統計力学を定式化したかという点についての研究はほとんどありません。

 この論文は主として彼の統計力学に関する主著を分析することで、彼の熱力学が物質の化学的性質を説明するためのものであったことを明らかにします。このようなギブスの統計力学は、気体の性質を導くために統計力学の前身となる理論を作り上げたマクスウェルやボルツマンとは対照的であるとされます。

 実質的なデビュー論文でありながら非常に高い完成度を誇る稲葉さんの論文です。難解といわれるギブスの科学著作を分析し、しかもその結果に適切な歴史的位置付けを与えることに成功しています。山本義隆、『熱学思想の史的展開』を読まれた方に特にお勧め。