テオフラストス、テミスティオス、アヴェロエス

  • 「テミスティオスを通してのアヴェロエスのテオフラストス利用」Demitri Gutas, "Averroes on Theophrastus, through Themistius," in Averroes and the Aristotelian Tradition, ed. Gerhard Endress and Jan A. Aertsen (Leiden: Brill, 1999), 125–44.

 アラビア語圏でのテオフラストスの伝承史研究の第一人者による論文です。

 アリストテレスの弟子であるテオフラストスは大量の著作を書いたことが知られています。たとえば200以上になる作品リストがディオゲネス・ラエルティオスの『ギリシア哲学者列伝』では挙げられています。しかしこれらの著作の多くは散逸してしまいました。というのも第一にテオフラストスの作品を筆写することよりも師匠のアリストテレスの作品を筆者することが優先されたからです。また第二に、古代末期のアリストテレス解釈者の多くは新プラトン主義者であり、彼らにとってテオフラストスの哲学的傾向性はそれほど興味を惹かれるものではなかったことがあります。そのため彼の著作は現在のギリシア語写本伝承の基礎をなす9世紀の写本群が作成されるまで生きのびることができませんでした。

 そのためテオフラストスの思想を復元するためには現存する作品のみならず、別の著述家による言及を丹念に掘り起こしていく必要があります。このための基礎資料が90年代よりはじまっています。

 この論文はこの資料集成のアラビア語伝承の部分を担当したグタスによるものです。アヴェロエスによるテオフラストスの学説への言及の(おそらく)すべてがテミスティオスの著作を通じての間接的なものだったことが証明されています。中世以降のラテン世界では知性について論じられる際にテオフラストスの学説が挙げられることが多いです。これは基本的にはアヴェロエスが引用しているテミスティオスの文章をみて、さらにそこでテミスティオスが引用しているテオフラストスの文章に行き当たった結果だと考えるべきです。

ギリシア思想とアラビア文化―初期アッバース朝の翻訳運動

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