ジョン・ロックと医学

The Body as Object and Instrument of Knowledge: Embodied Empiricism in Early Modern Science (Studies in History and Philosophy of Science)

The Body as Object and Instrument of Knowledge: Embodied Empiricism in Early Modern Science (Studies in History and Philosophy of Science)

  • ジョン・ロックとヘルモント医学」Peter R. Anstey, "John Locke and Helmontian Medicine," in The Body as Object and Instrument of Knowledge: Embodied Empiricism in Early Modern Science , ed. Charles T. Wolfe and Ofer Gal (Dordrecht: Springer, 2010), 93–117.

 ジョン・ロックが残したノート群や書簡から医学研究者としての彼の側面を描き出そうという、ロック研究における新機軸を打ち出した論文です。著者は『ジョン・ロックと自然哲学』という本を出す予定だそうで、この論文はその予告編のようなものです。

 ロックは経験主義の哲学者として知られていますが、大学では医学を修め、また一時期は貴族に医師として仕えて生計を立てていました。彼にとっての病気の治療とは伝統的なガレノスの体液説にしたがったものではなく、むしろ16世紀のパラケルススらによる革新により導入された化学(キミア)に基づくべきものでした。この化学的医学への傾倒は1659年ごろにはじまり90年代に至るまで続いていることが彼が残したノートや書簡から読みとれます。そこからわかるのは、化学に関するロックの知見の多くはボイルとの議論や、ボイルの化学関係の草稿へアクセスすることから得られていたこと。もうひとつは彼がファン・ヘルモントに見られる諸要素(アルカへスト、塩、種子(あるいはアルケウス)としての病気、定量的な化学実験への関心)を引き継いでいたということです。

 残された草稿類のさらなる調査と並んで、このような化学的医学への関心が、ロックの粒子論、第一次性質・二次性質の区別、『人間悟性論』の記述とどう関連付けられるべきかが今度の課題となりそうです。