ルドルフ・ゴクレニウスによる霊魂の自然化 De Angelis, Anthropologien

Anthropologien: Genese Und Konfiguration Einer, Wissenschaft Vom Menschen in Der Fruhen Neuzeit (Historia Hermeneutica Series Studia)

Anthropologien: Genese Und Konfiguration Einer, Wissenschaft Vom Menschen in Der Fruhen Neuzeit (Historia Hermeneutica Series Studia)

  • Simone De Angelis, Anthropologien: Genese und Konfiguration einer “Wissenschaft vom Menschen” in der frühen Neuzeit (Berlin: de Gruyter, 2010), 158-178.

 スコラ学的なアリストテレスの読み方と自然主義的なアリストテレスの読み方が衝突した結果、形而上学と自然哲学とが分離し、それがジャンルとしての「人間学」を成立させたというのが著者の主張である。

 これら二つのアリストテレスの読み方をめぐる議論をアルプス以北で引き起こした要因の一つが、マールブルグの論理学・自然学教授であるルドルフ・ゴクレニウスが1590年代以降に、ユリウス・カエサル・スカリゲルの著作『演習』を受容を開始したことにあった。ゴクレニウスによるスカリゲルの検討は、霊魂(anima)概念の変容をもたらし、これが人間学の成立に寄与することになった。

 スカリゲルの理論の特徴は、霊魂という言葉で人間の知的霊魂がつかさどる能力と、栄養摂取霊魂がつかさどる身体の形成力の双方を指していたことにある。この二つをゴクレニウスは分離しようとした。それにより知的能力の領域は霊魂(そして「精神 mens」)に、形成力の領域は「自然」の領域に回収されることになる。これは知的霊魂の形而上学化であると同時に、霊魂に伝統的にこれまで帰されてきた能力の自然化(Physikalisierung)であった。こうして自然の領域は質料(物質)的に理解できる領域として世俗化され、それが17世紀(たとえばグリソン)、および18世紀(たとえばアルブレヒト・フォン・ハラー)の発展に大きな意味を持つことになる。

 具体的にゴクレニウスがスカリゲルをどう読んだかをみていこう。スカリゲルによれば、人間の霊魂には二つの種類の知が認められる。一つは理性的霊魂がもつ知である。もう一つは発生の際にこの霊魂に先行する形成的霊魂がもつ知であり、この知が有機体の形成をつかさどる。形成的な霊魂は、有機体の形成という高度な営みを行うので、理性的霊魂よりも高貴なものとみなさねばならない。しかし栄養摂取霊魂が何かを知るというのはパラドックスではないか。植物が何かを知るのだろうか。また植物の霊魂が人間の霊魂より高次などということがあるだろうか。

 そこでゴクレニウスは次のように考えた。形成的霊魂は絶対的な意味で理性的霊魂に優越するわけではない。それはまだ器官が形成されておらず、理性的霊魂がその働きを発揮できないときにだけ、理性的霊魂より優れた働きをするのである。

 またゴクレニウスは、栄養摂取霊魂がもつ形成力がもつ知(認識 cognitio)と、感覚霊魂と理性的霊魂が持つような知とを区別した。栄養摂取霊魂はある種の知を持つのだが、それは感覚や概念にもとづく知とは区別されねばならないというのだ。

 さらにゴクレニウスは人間の霊魂は、動植物の霊魂とは異なり、個別に神によって創造されるという考えをスカリゲルから引きついだ。これにより霊魂(精神)の領域と自然の領域がさらにはっきりと区別されることになる。

 こうして栄養摂取霊魂にみられる働きを、より高次の霊魂の働き、とりわけ人間霊魂の働きから区別し、その下に位置づけることにより、ゴクレニウスが自然と霊魂(精神)との区別を鋭くつけていったというのが著者の主張である。