錬金術と生命原理

 初期近代に錬金術を実践していた人々や、錬金術理論に関心を抱いていた自然哲学者の多くは動植物のみならずおよそ物質一般の働きのうちに生命原理が認められると考えていました。錬金術が医学と強く結びついていたのはこのためです。生気論的錬金術は粒子論、機械論哲学といった新たに台頭した理論としばしば共存しました。たとえば微小粒子中に秩序形成を司る機械工のごとき生命原理があるとみなす者(セヴェリヌス、ファン・ヘルモント)や、形成力と呼ばれる同じく事物の秩序だった運行を可能にする力を粒子に付与する者がいました(ゼンネルト、初期のボイル)。生気論を錬金術とともに化学の領域から追放したのがシュタールでした。彼が生命原理を有機体の領野に限定して以降、もはや生気論者は無機物を自分たちの探究対象と主張することはなくなりました。