近代と国家のなかの歴史学 岡本「開かれた歴史へ」

歴史評論 2012年 05月号 [雑誌]

歴史評論 2012年 05月号 [雑誌]

  • 岡本充弘「開かれた歴史へ:言語論的転回と文化史」『歴史評論』No. 745, 2012年5月号、42–54頁。

 『歴史評論』の最新号は「歴史学をどう学ぶか」という特集を組んでいます。そのなかから、歴史記述のあり方について論じた論考を読んだので紹介します。言語論的転回を受けて成立したポストモダニズム的な歴史論は、従来の歴史学が近代以降の国民国家の枠組みで構築されてきたことを批判しました。伝統的歴史学は階級や封建制産業革命といった進歩や近代化という基本図式に依拠した概念装置を使って歴史を構造化し、その際には大学や公文書館という国民国家の庇護を受けた場に集積された史料を用いてきました。このようにして生み出された歴史が史実に基づく科学的なものとされます。しかしそこでは歴史表象のあり方が近代国民国家のあり方にあらかじめ規定されています。また構造化への志向は過去の具体的な人々を捨象することにも行われます。このような学問が権威化することで抑圧的な効果を持つにいたっているのではないか?より史料の範囲を広げる、たとえば文字史料だけでなく、口述、視覚的・物質的な史料を取り込んで、従来の歴史学で等閑視されてきた人々の歴史実践を取り入れた開かれた歴史学が必要ではないか?必要とされているのは、たとえば保苅実が『ラディカル・オーラル・ヒストリー』で行ったように「歴史学者がインフォーマント(情報提供者)の話を聞くのではなくて、むしろ、インフォーマント自身を歴史家とみなしたら、彼らはどんな歴史を実践しているのだろう」と考えてみることです。

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