- 作者: 小林道夫
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2007/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
同じく『哲学の歴史』シリーズからベールを扱った部分を読みました。ピエール・ベール(1647–1706)はプロテスタントへの迫害が強化されるルイ14世の親政時代に、カルヴァン派の家に生まれ、(一度はカトリックに改宗したものの再改宗した)プロテスタントとして生きました。そのため彼は故郷のフランスにとどまることはできず、最終的にはオランダに亡命しそこで大部分の著述活動を行うことになります。彼は彗星の出現は不吉な出来事の予兆だという考えを迷信としてしりぞけ、その自然学的・文献学的根拠をあげました。またカトリックを念頭に置きながら激しい偶像崇拝批判を行い、カトリック教徒よりもむしろ無神論者の方が有徳である場合があるとして、道徳と宗教の切り離しを行います。カトリックによるフランスでのプロテスタント弾圧がますます激しくなる状況をまのあたりにしたベールは、「今や、カトリック教と悪人の宗教とは同じ意味になる」と宣言します(644頁)。自然の光に照らしてみて、信仰の強制は許されない。そもそも宗教的真理に関しては人間は「打ちかちがたい無知」にとどめおかれるしかないのだから、各人の良心に反する強制を人に課すことは罪である。こうして内的良心の絶対化が行われます。ベールは代表作『歴史批評辞典』もまた良心への絶対的寛容に支配された文芸共和国として構想しました。そこで彼は歴史的理性への信頼が表明しています。しかしこのような理性の徹底は最終的には信仰主義につながります。「哲学は初め誤謬に反駁するが、そこまででやめさせないと今度は真理を攻撃しだす。好き勝手にやらせておくと先へ先へ行ってしまい、自分がどこにいて、どこに腰を据えたらいいかもわからなくなってしまう」。「理性を用いるにあたって、神の援助を必要としないものはいない」(652頁)。しかし続く啓蒙主義の時代はベールによる理性を武器にした形而上学と宗教の破壊のみを受け取ることになります。