テミスティオスの知性論とその解釈 Mahoney, "Themistius and the Agent Intellect" #2

  • Edward P. Mahoney, "Themistius and the Agent Intellect in James of Viterbo and other Thirteenth Century Philosophers (Saint Thomas, Siger of Brabant and Henry Bate)," Augustiniana 23 (1973), 422–67.

 ヴィテルボヤコブス(ca. 1255–1307/8)をとりあげた後半です(445–467頁)。アウグスティヌス修士会に属するヤコブスはその討論集のなかで能動知性について論じています。そこで彼はまずアリストテレス解釈者たちのあいだでの見解の相違があることを、先行学説を要約することで示します。このような見解の相違はアリストテレスの能動知性をめぐる言明があいまいであることを意味するとヤコブスは解釈しました。だからこそヤコブス本人の解釈もほかの解釈と同程度にはアリストテレスのテキスト中に根拠を見出すことができる、こう彼は主張します。

 この先行学説の解説のなかでヤコブスはテミスティオスの『霊魂論パラフレーズ』の解釈を行います。彼の解釈では、テミスティオスの第一の照らす知性というのは神を意味し、照らされて照らす知性というのは各人が持つ能動知性を意味することになります。この個別化された能動知性が各人の受動知性を照らすことで認識が成立します。第一の知性の解釈はHenry Bateに一致し、照らされて照らす知性の解釈はブラバンのシゲルスのものと一致しています。

 この論文がとりあげる4人の中世哲学者の能動知性論の検討は、テミスティオスの翻訳がすばやくパリの哲学・神学者界隈で受容されたことを明らかにします。ムールベケのグイレルムスがテミスティオス『霊魂論パラフレーズ』の翻訳を完成させたのは、1267年11月23日でした。アクィナスの『知性の単一性について』は1270年に書かれ、おそらくその2年後にシゲルスは『知性的霊魂について』を執筆しました。Henry Bateの作品は1281年から1302/3年のあいだのどこかで書かれています。ヤコブスの討論集は1293年から96年のあいだに書かれています。これらの作品のすべてがグイレルムスの翻訳を用いています。翻訳の完成直後からテミスティオスが重要な権威とみなされて熱心に読まれたことがわかります。テミスティオスだけでなく、フィロポノスやシンプリキオスの作品も合わせて言及されていることから判断するに、グイレルムスの翻訳活動は13世紀終盤のパリで古代ギリシア人注釈家が哲学議論に大きなインパクトを与えることを可能にしたといえます。