母なる月が与える冷 Bidwell-Steiner, "Metabolisms of the Soul"
- 作者: Manfred Horstmanshoff,Helen King,Claus Zittel
- 出版社/メーカー: Brill Academic Pub
- 発売日: 2012/06/01
- メディア: ハードカバー
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Oliva Sabucoが1583年に出した著作Nueva Filosofía de la Naturaleza del Hombreは、著者が女性であることからいくばくかの注目を集めてきました。しかしそこで展開されている哲学理論に歴史的位置づけが与えられているわけではありません。彼女の哲学は16世紀に提唱されていた物質主義的自然哲学の一つとして理解できます。ここで有効な参照点となるのがベルナルディノ・テレジオの『事物の本性について』(初版 1570年;改訂版 1586年)です。テレジオは世界は熱、冷、質料の三つの原理からなると考えました。そのなかで最も重要な位置づけを与えられるのは熱であり、これが霊魂を形成するとされました。Sabucoがテレジオを読んでいたという証拠はありません。しかしテレジオ哲学という背景抜きに彼女の理論の意義を理解することが難しいのは確かです。Sabucoは熱、冷、質料という三原理を立て、このうち母たる月に由来する冷が霊魂を構成すると考えました。彼女はテレジオの学説で位置づけが曖昧であった冷に、月という確かな座を与え、それを自らの女性中心的世界観の要に据えたのです。