パルマのブラシウスにおける人間の自然発生 Van Der Lugt, Le ver, le démon et la vierge

  • Maaike Van Der Lugt, Le ver, le démon et la vierge: les théories médiévales de la génération extraordinaire (Paris: Belles Lettres, 2004), 176–81.

 14世紀後半から15世紀初頭にかけて活動したパルマのブラシウス(ca. 1345–1416)は、理性主義的で自然主義的な哲学の提唱者として知られています。彼によれば理性によっては神の存在は証明できず、倫理的な決断は星々からの影響によってなされ、キリスト教を含めた宗教の勃興は占星術的に説明できます。「悪魔博士」と呼ばれた彼は当然のように協会の警戒の対象となり、パヴィア大学を1396年に追放されます。しかし司教の前で自説を撤回することで復職し、その後は教会と衝突することなく生涯を終えました。

 ブラシウスがなぜ教会に断罪されたかはわかっていません。しかしおそらく彼が人間、とりわけ人間の霊魂が自然発生しうるという学説を支持したことが危険視されたのではないかと思われます。彼は1385年にパドヴァ大学で行われた講義において(アヴィセンナにしたがって)、星々が質料に働きかけることで人間を含めたどんな動物の生成も行うことができると主張しました。旧約聖書にあるノアの洪水ののちにはまさにこのことが起こったといいます。実際にはあのときに人間は死に絶えており、その後自然発生することで再び人間が現れたというのです。彼はその自然発生は泥や糞においてではなく空中で起こるとしました。こうして彼は自然哲学の領域から超自然的説明を根絶しようとしたのです。

 断罪から復職を経たあとにパヴィアで行われた講義では一転して、人間の自然発生の理論が「誤りでありカトリックの信仰に反するもの」としてしりぞけられています。もし人間が質料から自然発生するなら、女性の子宮に天が働きかけることで子供ができるということが想定可能になります。この想定はマリアの懐妊が奇跡によるものであるという教義を掘り崩しかねないものであるがゆえに到底認められないというのです。しかしこう言いながらもブラシウスは、人間の自然発生の不可能性は「自然の光において」、つまり人間の理性によっては決定的には証明できないと主張していました。彼は教会との衝突を避けるために自説を撤回したものの、本当のところ意見を変えてはいなかったのです。