アヴェロエスにおける形相の起源 Freudenthal, "The Medieval Astrologization of Aristotle's Biology"

 アヴェロエスの自然学についての基本論文を読みなおしました。アヴェロエスはその初期と後期で、生成のときにあらわれる事物の形相がどこに由来するかということに関して意見を変えています。初期では事物の形相というのは能動知性から形相が流出し、それが質料に刻印されると考えられています。後期ではこの流出説が無からの創造を含意するとして警戒され、諸天体が形相を与える役割を果たすとされるようになります。ただしどちらにせよ生成のさいに生むものと生みだされるもの以外の外部の要因が必要だと考える点は同じです。アヴェロエスの論理にしたがうと、もし親だけが生成に関与することになると、生物種の原因がそのさらに親、そのまたさらに親、と無限にたどれてしまいます。この連鎖を断ち切るためには生物種の起源(形相因)を外部にもとめるしかないといいます。

 後期アヴェロエスは形相がどうやって天体から与えられると考えたのでしょうか。おそらく彼は次のように構想していました。第一の動者である神にはあらゆる形相が現実態として存在しています。これを天球の霊魂がその存在のランクにしたがって共有します。こうやって共有された形相が天から月下界に与えられます。このときどのような形相が与えられるかは諸天体の移動速度、相対的な位置に依存します。この天からの形相の伝達こそ摂理にほかなりません。形相の伝達は熱を介して行われると『動物発生論』に依拠しながらアヴェロエスは主張します。天から与えられる熱と親から与えられる熱がともに「霊魂的熱」として、形相の伝達に寄与するというのです。

 しかしなぜそれ自体として暖かくはない天体が月下界に熱をもたらすのでしょう。これに関してアヴェロエスはその初期の段階では天に由来する「神的な力」のおかげで天からの光が反射するときに熱が生じるとしています。初期段階では形相はあくまで能動知性から与えられるものなので、熱の役割は単に生成の条件を整えるという補助的なものにとどまっていました。しかし後期にはいると熱自体が形相の担い手とされるようになり、神的な力というアレクサンドロス学説ではこの熱の役割を説明するに不十分だと考えられるようになります。かわりにあらわれるのが天体の運動にともなって熱が生じるという学説です。とはいえ、この学説も形相の担い手として熱という観念とうまく連動する形で構築されているわけではありません。天から熱がどう生じるかという点はアヴェロエスの自然哲学におけるアノマリーとしてとどまりました。