ポンポナッツィの自然主義 伊藤「ポンポナッツィ」

哲学の歴史〈第4巻〉ルネサンス 15‐16世紀

哲学の歴史〈第4巻〉ルネサンス 15‐16世紀

 ピエトロ・ポンポナッツィについての簡にして要を得た解説です。すでに柴田さんが同じ著者による論文をまとめてくれているので(関連記事参照)、ここではそこに書かれていない点だけメモしておきます。ポンポナッツィの霊魂論、魔術論、運命論に共通しているのは、哲学の領域ではあくまで理性の限界内で思考しようとする姿勢です。超自然的な啓示的真理にうったえないこの姿勢は自然主義と呼ぶことができます。自然主義的なアリストテレス解釈は神学部が強力なパリではおおきな勢力をえることはできなかった一方、医学部と法学部中心に編成されていたボローニャパドヴァでは勢力を伸長させていました。

 ポンポナッツィはこのような自然主義アリストテレス主義を推進するものの一人であると同時に、ルネサンス期に復興した多様な思想潮流を自らの哲学のうちに取りこむ先進性をも有していました。たとえば彼の運命論はストア主義に多くを負っていますし、彼が霊魂の不滅性に高い関心を示していることはフィチーノの『プラトン神学』を意識していることをうかがわせます。また実践的生活の擁護は初期人文主義を思わせるものがあります。

 こうした自然主義とあらたな潮流との結節点となったポンポナッツィの哲学スタンスは哲学の自律性を維持しようとする点でその後の哲学の方向性を指し示しています。しかしだからといって彼の自然主義を後の自然科学と直結することはできません。彼はガリレオやハーヴィのように実験や解剖をおこなうことはありませんでした。彼はあくまで論理分析と概念分析に優れた哲学者として自然を論じていたのです。