口頭試問と共和制 惣領作、原監修『チェーザレ』10巻

チェーザレ 破壊の創造者(10) (KCデラックス)

チェーザレ 破壊の創造者(10) (KCデラックス)

 最新刊です。ジョヴァンニのピサ大学での学位取得からフィレンツェでの枢機卿就任までが描かれています。本巻では権謀術数渦巻く教皇庁の描写や、聖俗の関係をめぐる理論の解説もなりをひそめ、長きにわたったピサ篇を締めくくるにあたって各登場人物の心情や人間模様を描くことが主に行われています。

 だがなんといっても本巻の目玉は大学での口頭試問です。いや話的には目玉ではないのかもしれませんけど、私的には。注目すべきことがいくらでもあります。まず試験には司教が立会います。この場合はラファエーレです。試験官がいます。本作では6人です。試問が終わると各試験官が評価を述べ、「優と認む」という最高の評価を下しています。最後に大司教の名において学位授与が認められ、開かれた本を手にしたジョヴァンニにベレッタ頭巾がかぶせられています。

 この描写はもちろん調査に基づいています。私の家にはグイド・ザッカリーニ『中世イタリアの大学生活』しか関連書籍がないのですけど、それを見てみると『チェーザレ』の口頭試問の様子が実際のそれに忠実に描かれていることがわかります。たとえばジョヴァンニが最後に手にしている書物が開かれていること、この開かれた本を受け取ったあとにベレッタ頭巾をかぶせられていること、こういう細かい点に監修者の配慮をうかがうことができます。ところでザッカリーニには試問は教会でと書いてあるのですけど、『チェーザレ』では大学で行われているような。

 もう一つ着目したいのはチェーザレが語る共和制です。「本来なら共和制は貴族が施政にかかわってはならぬもの」とあります。しかし私には本来の共和政というのはまさに貴族から選ばれた元老院で審議が行われるところにその生命線があったように思えるのです。貴族からなる元老院によってなされた勧告を平民が民会において正式決定する(あるいは棄却する)という形でローマ共和制は動いていました。となるとこのチェーザレの言葉はどう解釈すればよいのでしょう。むろんこの言葉の典拠は古代ローマ共和制の実態というより15世紀末の共和制理解を示した史料にあるのでしょう。監修者にぜひそのあたりについて教えを請いたいところです。

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