トークイベント「ヘルメスの図書館とカルダーノのコスモス」参加記

 この7月より勁草書房から刊行がはじまった「bibliotheca hermetica叢書」の第一弾を飾る榎本恵美子『天才カルダーノの肖像 ルネサンスの自叙伝、占星術、夢解釈』の発刊を記念するトークイベントに出席してきました。本書に解説を寄せている関係でいちおう話す側として会場に立ったものの、実質的にはほぼ著者の榎本さんと、編者のヒライさんの話を聞くことに専念しました。

 この本自体については私は解説で思うことを述べてしまったので、とくに加えて書くことはありません。またイベントが成功したかいなかも登壇者の一人として判断すべきことではないでしょう。

 ひとつだけ書きとどめていたいのは、榎本さんの姿のうちに私の近親者の一人である女性を重ねて見ないでいることは難しかったということです。その人は榎本さんよりもおそらく年齢は干支一回りはうえですけど、同じように大学の文学部で学びました。卒業後は結婚し主婦をしていたものの、大学で学んだこととの関係は切れることなく、自宅で英語の家庭教師をしていました(英文科出身なので)。また英語の本を習慣的に読むということはいまでも続けています。この点、大学院に通い、学術論文、翻訳を発表し、ついには一書を世に問うまでになった榎本さんとは水準がまったく違うのですけど、学問とのつながりを保ちつづけたという一点で共有するものがあるように思えます。また榎本さんが40年以上にわたって東京女子大学の同窓生と読書会を開いて、「一冊の本を皆で耕すように読み、また一人の作者の作品群を何年も書けて読んできました」(259ページ)というように、その女性もまた『源氏物語』や現代の諸々の文芸作品を読む読書会を数十年単位で知人の女性たちと開いています。

 この女性、というか私の祖母なわけですけど、この人と榎本さんの「肖像」が違いをもちながらも重なる点があることが、まったく偶然のものであるとは思えません。カルダーノならここで星を持ちだすのでしょう。しかしいまの私たちは別の説明方式を持ちあわせています。それを適用するのは私の手にはあまるわけですけど、このような肖像に意味を与えるための営みはなされてよいのではないか。そんなことを考えながら会場に座っていました。