実体から関数へ カッシーラー『認識問題』「精密科学の成立」

認識問題 1――近代の哲学と科学における

認識問題 1――近代の哲学と科学における

 『認識問題』第1巻から第2部第2章「精密科学の成立」を読む。あつかわれているのは、レオナルド・ダ・ヴィンチケプラー、ギルバート、ガリレオである。主張は明確である。レオナルドからガリレオにいたる近代科学の成立期に起きた変化は、事物から出発する自然認識を脱し、関係から出発する自然認識を獲得したことであったというのだ。事物から出発する自然認識は、アリストテレスに基づく。人はそれぞれの事物が有する本質(実体形相)をまず理解してはじめて、それぞれの本質にしたがって事物がいかにふるまうかを理解できる。これら事物のはたらきの総体がコスモスの統一性を形づくっている。

 しかしこの方法は本質を目的性から理解しようとすることで、自然に人間の主観を投影してしまう。そこで事物の本質からの出発を放棄するところから科学ははじまった。なにに着目するか。諸事物がみせるふるまいのあいだで成り立っている関係性である。その時、関係性の基底には量があるとみなす。なぜなら量は数学的に記述でき、数学的な記述こそが確実な知識を与えるからである。量に立脚した諸事物の関係性は、この世界のあらゆる部位において妥当性をもつ数学的法則として表現される。この立場を明確にしたガリレオにたいしては、一般原理をもとめるあまり、自然にある個別性を犠牲にしているとの批判が寄せられた。