普遍的懐疑から必然的真理へ 小林道夫『デカルト入門』

デカルト入門 (ちくま新書)

デカルト入門 (ちくま新書)

 とある研究会の準備のために、デカルト哲学の基本を学ぶ。デカルトについて知りたいならまずこの本である。デカルトは普遍的な懐疑から出発する。この懐疑により、感覚知覚、身体感覚、果ては数学的真理まで確実でないとされる。だがこうして「確実なものはなにもない」と説得している私は確実にある。この私の本質にあるのは「考えること」である。ここから神の存在証明がはじまる。第一の証明。存在する私は考えており、この私は一定の観念を有している。このとき私は無限実体としての神の観念をもっている。だが無限実体の観念は有限な私には形成できない。よってこの観念を私に刻印した神がいる。また普遍懐疑を行うとは、私が完全な存在でないと認めることである。この認知は最高に完全な存在者との比較の上ではじめてなりたつ。ところが最高に完全な存在者の観念は私によっては形成されない。よってやはり最高に完全な存在者である神は存在する。第二の証明。最高に完全な存在者である神の観念をもつ私はなぜ存在し続けているのだろうか。その存在の原因は私だろうか。しかしそうすると神の観念をもつ私の存在の原因は、完全な存在者であるはずなので、私が神になってしまう。よって私の原因は私ではなく、最高に完全な別の存在に求められねばならない。この存在は自己の原因でもある。第三の証明。「最高に完全な存在者」という神の本質は、必然的に「存在する」ことを含む。よって神は存在する。以上のように証明された神は最高に完全な存在者である。よってそのような神は欺かない。神は欺かないのだから、その神が創造した私たちが明晰判明に理解するものは必然的に真でなければならない。こうして明晰判明な認識は真であるということが、疑問の余地なく証明される(とデカルトは考えた)。