古くてよいガリレオへの入り口 青木『ガリレオ・ガリレイ』

ガリレオ・ガリレイ (1965年) (岩波新書)

ガリレオ・ガリレイ (1965年) (岩波新書)

 もはや半世紀近く前の本である。しかしまだ読む価値がある。近年オックスフォード大学出版会から出されている入門書よりよいと思う。なによりもこれだけの分量でガリレオ・ガリレイについて知るべきことをほぼ網羅してくれているのがすばらしい。とくにガリレオの性格・生活や彼をとりまく人間模様をうかがわせるような記述が随所に散りばめられているのが楽しい。彼が職を得るためにトスカナ大公(彼のパトロンとなる人)にあてた手紙であるとか、ヴェネツィア共和国を去るにあたって友人のサグレドが送った警告であるとか、ガリレオの娘や息子が彼に送った書簡であるとか、印象深い史料が引用されている。また『天文対話』出版以降の審問の様子にも詳しい。これだけの小著であるのに、重要なやりとりの多くが収録されている。反対に弱いのは『新科学対話』で展開される運動論であり、その内容はほとんど書かれていない。これについて知りたければ別の書にあたらねばならないだろう。いまでは受け入れがたいと感じさせる点がスコラ学への評価であるとか、コペルニクス説のプロテスタント圏での受容の様子であるとか、いくつかの記述において散見される。紙幅が割かれている審問の部分についても、特定の時点でのガリレオの心情の推察に疑問を感じさせたり、教皇庁内部での人々の動きが解明されてきている現状からすると万全とはいえない記述もある。しかしこれらの指摘は相当に専門的な見地からなされている重箱の隅つつきのようなものである。さしあたってガリレオについて知りたい人には本書は十分かつ魅力的な語りを提供してくれる。ここに書いてあることをおさえておけば、運動論が主題となるのでもないかぎり、ガリレオをめぐるどんな対話にもある程度ついていけるようになるはずである。

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