誰がモーセ五書を書いたか（1）　Malcolm, "Hobbes, Ezra, and the Bible"

 

Aspects of Hobbes

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  • Noel Malcolm, "Hobbes, Ezra, and the Bible: The History of a Subversive Idea," in Malcolm, Aspects of Hobbes (Oxford: Oxford University Press, 2002), 383–431.

　この論文でNoel Malcolmは、ラ・ペイレール、ホッブズ、スピノザは、モーセ五書の著者がモーセではないとするに当たって、すでに利用可能となっていた考え方を新たな使い方で使ったのだと主張している。またMalcolmは、それらの考えを利用可能にした彼ら以前の伝統から、現代の聖書批判学は出現したと主張している。

　Malcolmはまず、「モーセ五書を書いたのはモーセではなくエズラである」という説は、17世紀の中頃まで見られず、それ以降はこの説はホッブズ、ラ・ペイレール、スピノザ（そして時としてリチャード・シモン）に帰されるようになったことを確認する。ではこのうち誰が最初に唱えたのか。出版年だけから判断すると、ホッブズ『リヴァイアサン』（1651年）、ラ・ペイレール『アダム以前の人間』（1655年）、スピノザ『神学・政治論』（1670年）で、ホッブズが最初のように思える。しかしラ・ペイレールの著作は手稿として出版よりかなり前から流通していたということを考え合わせなければならない。

　Malcolmはスピノザから始める。スピノザが『神学・政治論』を書いていたときに、ラ・ペイレールの著作を読んでいたことは確実である。これは二人の議論がしばしば一致していることと、スピノザの蔵書目録の中にラ・ペイレールの著作があったことから分かる。

　Malcolmは、他方でスピノザは『リヴァイアサン』を1667年のオランダ語訳、ないしは1668年のラテン語版で読んでいたかもしれないとする。オランダ語訳は、スピノザが交流をしていたグループの一員であるアブラハム・ファン・ベルケルによって準備されたのだからなおさらである。また同じグループのアドリアーン・クールバッハは、ファン・ベルケルと接点があり、著作の中で『リヴァイアサン』のオランダ語訳を利用している。さらに、クールバッハの『暗闇の中で輝く光』では、モーセ五書がモーセではなく、おそらくはエズラによって書かれたと主張されている。スピノザがクールバッハとモーセ五書の著者について議論したかどうかは確定できないものの、以上の状況を考えるならば、彼がホッブズがこの問題を扱った『リヴァイアサン』第33章を読んでいたと考えるのは理にかなっている。Malcolmはまた、スピノザが『リヴァイアサン』を読んでいたことは、著作の内容からも裏付けられるという。とりわけ彼らが「霊」や「神の言葉」に対して与えた解釈の類似性からそう言えるという。

　Malcolmはしかし、モーセ五書の著者の問題についての議論の着想を、スピノザが『リヴァイアサン』から最初に得た可能性は否定する。スピノザの議論は中世のユダヤ人注解者であるアブラハム・イブン・エズラに依拠しており、このような資料の調査は、スピノザがユダヤ人共同体と論争していたときに行われたと考えられる。したがって、モーセ五書の問題についてのスピノザの議論は少なくとも1656年にまで遡ることになる。この時点では『リヴァイアサン』のオランダ語訳もラテン語版もないので、少なくともスピノザがモーセ五書の著者性についての彼の議論を直接的に『リヴァイアサン』から引き出したことはありえない。他方で、スピノザがラ・ペイレールに何らかの刺激を受けていた可能性は残る。ただしMalcolmは、スピノザがモーセ五書の著者についての議論の着想を『リヴァイアサン』から得たことはなくても、この問題への彼の回答を最終的に『神学・政治論』で定式化するにあたっては『リヴァイアサン』から影響を受けていた可能性はあるとする。モーセ五書がエズラによって書かれたということは、ホッブズにおいて曖昧な形であるにせよ論じられているからである。

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