名婦の書簡 17 続き

 あなたは私の母がふさわしい人物だと思ったのでしょう。母がそうだったように、私の心も動かすことができるのではないかと考えたのです。

 でも私の母は偽りの外見にだまされて過ちを犯したのですよ。このことを分かっていないあなたは間違っています。彼女を誘った男は、羽をまとって白鳥のふりをしていたのです。

 私といえば、もし過ちを犯すとしても、知らなかったとは言えません。自分がとった行動に対する罪をおおい隠してくれるような間違いはしでかしていないのです。

 私の母は完全に間違ったのです。だからだました張本人であるゼウスを引き合いに出して、自分がしでかした過ちをあがなったのです。私といえば、どんなゼウスを引き合いに出して、「罪は犯しましたが幸せ者だ」などと言われればよいのでしょう?

 あなたは自分の氏族、祖先、それに自分が王の一族に連なることを自慢します。でも私の家も、その高貴さにかけては、十分素晴らしいのですよ。

 ユピテルが義理の父の祖先にくることや、ペロプス、タンタロスの息子、そしてテュンダレオスの名誉については黙っていることにしましょう。私の母のレーダーは、白鳥にばけたゼウスにだまされました。それで私の父はゼウスということになったのです。信じやすい彼女は、ゼウスがばけた偽の白鳥を膝の上にのせて、抱きしめていました。

 さあ行きなさい。トロイアの始まりが遠くにさかのぼることを触れてまわりなさい。プリアモスのことも、彼の父であるラオメドンとセットにしてね。(45-58)

 彼らのことは尊敬しています。でもあなたはゼウスに連なっていることが名誉に思えて仕方ないようですが、ゼウスはあなたから数えて5番目なのですよ。私から数えると彼は1番目なのです。

 あなたのトロイアの支配が協力であることはなるほど認めます。だけどここスパルタがトロイアよりも弱小だとは思いませんことよ。かりにこのスパルタは富や人の多さという点ではトロイアに遅れを取るとしましょう。でもなんといってもあなたのお里は野蛮ですからねぇ。

 あなたは手紙の中で、大変気前よくプレゼントを約束しています。そのプレゼントといったら、かの女神たちを動かすことができるほどのものです。でももしかりに私が恥じらいの心の限度をとっぱらってしまおうと思っていたとしたら、あなたはそんな私の過ちの格好の火種となっていたでしょう。

 私はこのまま永久に一点の曇りもない名声を保ち続けるか、あるいは贈り物ではなくあなた自信を追いかけるか、二つに一つなのです。

 確かに私はプレゼントを突き返しはしません。だってプレゼントはいつもとても嬉しいものですから。贈ってくれる本人が、プレゼントを価値あるものにしてくれるのですからね。

 贈り物よりも大切なのは、あなたが愛してくれていることです。私のためにあなたが苦労してくれていることです。あなたが私を求めてこんなに広い海を渡って来てくれることです。(59-74)